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EMS事情(2)

2019/3/26 火曜日

東興商会の松浦です。先日札幌でFMラジオ番組のゲストとして出演して収録をしてきたのですが初めての経験だったので大変緊張しました。今回は前回「EMS事情(1)」の続きです。

前回の文中で返送率の上昇といった状況の変化は中国政府の思惑もある、と書きました。あくまで僕の私見ですが中国税関のEMSに対する規制は今後厳しくなることはあっても緩くなることはないと考えています。それは何故か。

まず大前提として中国における個人輸入についてお話しする必要があります。我々日本人が海外の商品を購入すると国際郵便で日本に向けて商品が発送されて我々の手元に届くのですが、この時、個人輸入という形をとっているのは皆さんご存知だと思います。しかし、中国ではこの個人輸入を認めていないんですね。たとえ一個人が自分で使うための消耗品の購入であったとしても海外から商品を輸入する際には本来は輸入事業者の免許を持っていないといけないルールなので、一定の要件を超えてしまうと輸入事業者である証明を提示しなさいと求められるケースがでてきます。たとえば前回事例としてあげた郵便局からの呼び出しの際に「これこれこういう商品が届いているので、責任者自身が輸入事業者の許可証を持ってきてください」と連絡が来るわけですが、実際のところ殆どの購入者は個人であって事業者ではありませんから、持っていないと回答しますよね。そうなるとこの荷物はルール違反の荷物ということになり発送側へ返送される…筈なのですが、こういうケースの場合は商品がどこかで消えてしまうことが多々あります(何故かはセミナーや懇親会などで質問いただいた時にお話ししています)。

「個人輸入を認めていないのであれば、何でEMSで沢山の商品が送られてるんだ。おかしいだろう」と思われた方が沢山いらっしゃると思います。実はこれ「超拡大解釈された特例がそのまま運用されているだけ」なんです。

どういうことかと言いますと、たとえば大学に留学した学生さんや長期間単身赴任していたビジネスマンが中国に帰国するときに、自分の荷物を中国に送りますよね。服、日用品、家電品、消耗品…そうした荷物の中に、買い置きしてあったカップラーメンや化粧品などが数個に紛れ込むなんてことは普通にあり得る話です。本来は個人の荷物であってもその中に外国の商品が含まれているなら関税を支払ってもらうべきだけれど、でも、そういう荷物に若干の商品が紛れ込んでしまうのは仕方ないことだし、個人の荷物をいちいち開封してチェックしてその中から商品を見つけ出して関税を徴収するのも大変だし…。ということで、見逃しているという状況なのだ、と考えてもらうと分かりやすいのではないでしょうか。

更には、自分の荷物を送るのだから「本人から本人へ」でなければおかしいのだけれども、本人が中国の実家へ荷物を送ることもあるだろうし、逆に先に帰国してしまった後に友人に頼んで荷物を送ってもらうこともあるかもしれないから、別人名義宛の荷物があるのも仕方ないよね。そんな拡大解釈をしているうちに、いつしか、代理購入や転売屋といった人々がその制度の穴を活用する形で中国向けに大量の荷物がEMSで送られるようになっていった訳です。

ここで慌てたのが中国政府です。EMSによる中国への商品の流通量は年々増え続け、2014年のあたりで既に数千億円規模に到達していました。それだけの流通が発生しているのに、「50元という免税額を逆手にとったアンダーバリュー(による脱税)」と「DDUという仕組みによる買主側の納税拒否」によって、肝心の関税の徴収額は大して増えなかったからです。

ここで中国政府は考えます。理想は国内メーカーが製造した商品だけが流通すれば税金も取れるのでそちらに持っていきたいのだが、中国の消費者が海外メーカーの商品を購入しようとする流れはどうやら止められそうにない。どうせ止められないのであれば、どうすれば関税の徴収率を増やすことができるだろうか。そうした国の意向を受けた人々が招集されて税制に関する研究会などが開催されるようになり、そしてその結果を受けて2016年4月から施行された「越境電子商取総合税」へと繋がっていくことになります。

簡単に言えば、「これまでEMSなどに適用されていた行郵税に加えて、新しく越境EC税を作ったよ」「行郵税は実質税率UP(10/20/30/50%⇒15/30/60%)するよ」「越境EC税は税関に商品を登録してDDP(「EMS事情(1)」をご参照ください)方式で納税をきちんとしてくれるならに関しては税率を優遇(11.9/32.9%)するよ」「また、EMSの開封率を上げていくよ(越境EC税含めDDPの荷物とは通関のしやすさがかわるよ)」といった内容だと思ってください。要は優遇税制である越境EC税を適用されたければ税金をきちんと納めてね、と。反面、税金を徴収しきれないEMSについては税率UPするし通関もしにくくなるよ、という仕組みを作れば、中国に商品を販売したい企業は積極的に越境EC税で運用しようと考えるはずだし、自ずとEMSの比率は下がって関税の徴収率も上がっていくだろう、と考えたんですね。

…考えたのですが、それから2年運用してみても、当初想定していたよりも状況は変わらなかったのだと思います。確かに、2014年あたりから代理購入をしてEMSで商品を送っていた個人レベルの人々はダメージを受けました。注文された商品を中国に送ったは良いものの税関で開封検査を受けてお客様に納税通知が届く。お客様は税金のことなど考えていませんから納税を拒否し商品は日本に返送される。お客様は売主に対して「そんな話は聞いていない!どういうことだ!」とクレームを言ってきますので、その対応をしつつ再度中国向けに発送をしていく訳です。何度か繰り返していれば運が良ければ届きますから、それを狙うんですね。しかし、実際には信用を失ってキャンセルされてしまうケースが多く、キャンセルされた商品がまだ売れる人気商品であれば兎も角、マイナーな商品だった場合にはそれがそのまま不良在庫として自分の手元に残ってしまう訳です。結果、不良在庫を抱えても資金繰りが回せる業者は生き残り、それ以外の個人レベルの業者は資金ショートし撤退をしていきました。そういう意味では効果はあったのでしょうが、中国の人々もそれ以上に強かですから政府が新しいルールを作ればそれに対する対応策を考えて実行していったんですね。

例えば、税関の職員に袖の下を渡して自分の荷物だけを開封せずに通してもらう、なんて話は日常茶飯事でした。僕が知っている限りでも、普通の主婦、個人レベルでさえ普通にこの手の手配をおこなって中国向けに商売をしていましたから。この頃は大体年間100万円程度だったと思います。(この手の話は長くなるし怖いので、ご興味があればセミナー後の懇親会などで質問してくださいw)

ここで今年から施行された「電子商取引法」がでてきます。ある意味、2016年の税制変更だけではカバーしきれなかった部分をこの法律によって抑えようとしている訳です。特にターゲットになっているのは個人レベルもしくは法人であっても中国に納税をしていないような企業で、彼らの利益の源泉は(アンダーバリューによる脱税も含めた)中国向けの越境ECですので、そこに追い打ちをかける的な意味でもEMSの通関チェックを厳しくしていると言われています。ただでさえ荷物の開封率が上がって返送率が増えてきているところに帰国時に逮捕される可能性がでてきたので、皆、様子を見ながら戦々恐々としているのが現状だと言えるでしょう。実際、リスク回避のために早々に商売替えを決意した人々も沢山知っています。日本の事業者さんやメーカーさんでもこうした方向性になるということを事前に分かっていた人は意外に少なかったんだなぁ、というのが僕の感想です。我々はEMSによる中国向け発送はいずれ必ず厳しい時代が来ると想定していましたので、初めからEMSに依らない中国向けの物流体制を準備してきて今に至ります。

業者さんによっては未だに「開封率が上がったとはいえ高が知れているのだからどんどん送ればいい」と豪語する人も少なくありません。確かに、毎日中国の税関に届く商品を限られた人の手で全てチェックすることは不可能でしょう。だからこそ、先ほど書いたような「袖の下」作戦も通用していた訳です。ですが、僕はここについては中国政府は必ず対応策を実施してくると思います。例えば「AI」です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、中国の大都市で開催された芸能人のコンサート会場で、警察官が装備しているサイバーグラス(オンラインで接続されたサングラス)によって6万人の観客の中から1人の指名手配犯を発見し逮捕した、なんて事例が昨年だけで3件あったと思います。大混雑の人混みの中から人の骨格や動きなどから個人を特定する、そんな技術が実装されている中国であれば、税関のX線検査機にAIを組み込んでX線の印影だけで商品を判別し、個人利用の枠を超えた(商業目的の)荷物全てを発見できるようになるまで、そう時間はかからないと思います。

その上で、アンダーバリューの常習犯についてはブラックリスト化し通関時に差別をしたり(これは既に導入されています)、罰則規定の強化など色々な施策が予想できます。EMSを使って中国市場向けの配送を続けていかれる事業者様は、この辺りについてもきちんとした配慮をしつつ物流体制の構築をしていく必要のある時期に来ているのかもしれませんね。